ホスト依存により起こる売春などの問題について、特定非営利活動法人レスキュー・ハブの坂本さんにインタビューを実施し、民間団体としての支援内容や支援の際に意識されていることをお聞きしました。類似ケースにおいて支援の参考にしていただけますと幸いです。
「ホスト依存に関する民間団体の支援活動」
- #依存症


レスキュー・ハブ 代表 坂本 新
レスキュー・ハブは、主として風俗や売春などの性産業や、ガールズバー、コンカフェなどの水商売、また援助交際やパパ活などに従事することで被害に遭ってしまった、困った状況に陥っている、といった方々のお話を伺い、解決に向けた支援を提供します。
ホームページ:https://rescuehub.jp/
「レスキュー・ハブでの活動内容について教えてください。」
「レスキュー・ハブ」では名前の通り、「ハブ役として当事者を適切な社会資源に繋げる」ことを目的に、主な4つの活動を行っています。
1. アウトリーチ事業:
毎週火、金、土曜の20時~24時のうち、1時間~1時間半程の時間で、新宿歌舞伎町で売春や性産業、水商売等に従事している女性に対し、直接声掛けをしながら相談カードを貼付したグッズ(クレンジングペーパー、カイロ、ハンドクリーム等)を配布しています。令和5年度は124回実施して、延べ4,482名に声掛けをしています。
直接声掛けを行うことで、顔の見える関係性を構築し、相談者が色々な相談をしやすくなるよう工夫しています。
2. 立ち寄り所事業:
新宿区立大久保公園付近で路上売春を行っている方々に対して、休憩場所を提供しています。携帯電話の充電、トイレの貸出、飲食物の提供、生理用品や日用品等の用意もしており、体調が悪ければ休憩してもらう、そういったちょっと自由に使える場所にしています。またその中で来訪する女性と信頼関係を構築し、困りごとの解決に向けた支援を行っています。立ち寄り所は毎週金、土の20時~24時に開設しており、令和5年度は111回、延べ406名が来てくれました。(写真1)
3. シェルター事業:
1Kタイプのマンションを契約しており、その日、安全に過ごせる居場所がない方に一時的な宿所として居場所を提供しています。基本的な家電や日用品も揃えてあり、身一つで入っても数日間生活することができます。令和5年度は224泊の利用がありました。
4. 同行支援・調整支援:
具体的な相談が入った時に、関係機関の情報提供を行ったり、本人が希望した場合は関係機関に同行することもあります。相談の中には医療や司法介入など支援団体のみでの解決が難しいケースも少なくはなく、本人も情報提供だけでは不安があって足が止まってしまったり、億劫になったりして、状況がどんどん悪化していくケースが多いので、本人の了承を得たうえで、関係各機関への調整を図り、必要に応じて同行し、公的支援に確実につなげることを心がけています。

(写真1:立ち寄り所事業の夜間相談室)
「ホスト依存に関して、相談に来られる方には、どのような特徴がありますか。」
相談者には、精神障害や軽度知的障害等を抱える方が少なくないなという印象があります。例えば、精神障害者手帳、療育手帳を持っている、もしくはヘルプマークをつけている方も一定数います。
また、虐待やネグレクトなど、何らかの事情で家庭が安全・安心な場所とは言えず、児童養護施設等に身を寄せていた当事者も少なくありません。年代としては、10~20代前半の比較的若い層が多いのが特徴です。
家庭や学校に居場所がなく、成育歴の過程において、健全な承認欲求が満たされず、自己肯定感を維持することも難しい状況にある方が、自らの居場所として、無条件で自分を受け入れてくれるホストクラブやメンズコンセプトカフェなどに行きつくことも多く、彼女たちにとって安全で、安心できる居場所が一般社会に少ないことも課題の一つと考えています。
各支援事例で共通していることは、本人の支払い能力を超える売掛金・立替金を抱えていることです。これはホストクラブの戦略として、疑似恋愛を恒常的に行い、10万20万、時には100万円をはるかに超えるサービスへ誘導されているケースも散見されます。
「実際に支援をする際には、どのような課題がありますか。」
本人から、「売掛金のことで悩んでいる」「ホストクラブから離れたい」という相談は少なく、むしろ、いわゆる「推し活」の継続や売掛金支払いのために、風俗で働いたり売春をしたりする中で生じる困りごとや問題の相談にくる場合が多いです。
本人は好き好んで性産業に足を踏み入れているわけではなく、「推し」である担当ホストや店舗キャストなど自身の「担当」を応援する気持ちが、体を売ることのリスクやしんどさに勝り、「担当のためなら頑張れる」と自らに言い聞かせているケースもあります。そのため、本人が「本当に困った状況」にならないと相談してこないため、深刻な状況に陥ってしまうケースも少なくありません。
また、風俗や売春に従事する中で性病への感染や、予期せぬ妊娠をするケースもあり、本人の希望により治療や中絶に関する支援も行いますが、治療や中絶が、いわゆる「推し活」をやめるためのきっかけとなることは現段階では少なく、本人が自らの意思で「推し活」をやめようと思ってもらえない限り、売春・風俗勤務が続くという課題があります。
「支援において特に工夫している点はありますか。」
とにかく当事者とつながり続けることを意識しています。
「生活を根本的に変えたい」と本人が思わない限り、本人の環境を変えることは難しいため、本人が環境を変えたいと思った際に、迅速に支援を開始できるよう、細くても、緩くても、当事者とつながり続けることを心がけています。
また、「推し活や売春は控えるべきだ」という支援側の意見を伝えると、学校や家庭での指導やしつけを想起させ、支援団体から離れていく可能性があります。その結果本人の孤立を招き、被害が深刻化することも考えられるため、本人にとって自分が否定されたと感じさせない対応や、自分の意思だけでなく、自分自身が尊重されていると感じてもらえるような対応を意識しています。
なお、状況に応じて専門職の方にもご協力をお願いしています。
犯罪などに巻き込まれ、安全の確保が必要と判断される場合であれば警察、不当な売掛金の請求や司法介入が必要と判断される場合には弁護士、生活困窮や住居に関する問題であれば自治体、予期せぬ妊娠や性感染症、健康問題については医療機関など、本人の了承を得たうえで、関係機関と連携して対応しています。
一例として、ホストクラブの売掛金問題では、ホストクラブを利用したものの、本人の身に覚えのない高額な売掛(たとえば100万円や150万円など)の請求が発生するケースがあります。このような場合、弁護士が当事者の代理人として、請求内容の開示や、支払い方法、また当該弁護士が代理人となったことで、今後のやりとりは本人ではなく、すべて弁護士が行う旨を記載した文書を作成し、内容証明をつけて担当ホストに送付することで、不当請求そのものが止まるケースもあります。
「民間団体として自治体の支援者の方にお伝えしたいことはありますか。」
「レスキュー・ハブ」としては、当事者の中長期的な安全・安心を確保するために、真に機能する「官民協働体制」を構築したいと考えています。あくまで民間団体は草の根レベルで当事者とつながり、当事者の置かれている状況を把握し、解決したい問題、必要な支援が何かが見えてきたら、その問題を解決できる公的機関に最短距離で繋ぐなど、支援のハブとなることがその役目だと思っています。
また、当事者が自治体の窓口まで行くというのは、相当困っていたり、何度も逡巡した結果として、ようやく足を運んだりしている場合が多いと感じています。その方達の多くが、本当に困った状況にあっても、自身の状況を客観的に説明したり、どのような支援が必要か説明したりすることが苦手だとも考えています。そういった当事者が窓口に来た際、ぜひ自治体でできることをできる限りやっていただき、できることがなければ、代替案を2~3つ伝えていただきたいです。こうした相談対応の中で、相談者との関係性が構築されていくものと思いますので、その関係性の維持継続をぜひ目指していただきたいです。
例えば望まない妊娠の場合、対処方法を何かしら伝えないと、初期中絶で対応できたものが中期中絶に、もっと時間がかかると、産むしか選択肢がない状況まで行ってしまいます。結局本人だけでは何もできず、より状況が深刻化してしまうのです。そのようなことが起きないよう、窓口に来た人間を離さないぐらいのつもりで、関わって欲しいと思っています。
売春や風俗に従事する女性に対し、「自分の意志でやっている」という考え方が社会では根強いです。しかしながら、そこに至った背景には何があったのか、伝えたいことは何か、その言葉の裏にあるものも想像しつつ、相談者本人が本当に必要としている支援は何かを共に理解し、相談者側にもう一歩踏み込んだ支援を提供していく必要があると考えています。民間団体だけでできることはそう多くはなく、相談者の中長期的な安全・安心を確保するためには行政の支援が不可欠です。その実現のためにも、行政ともしっかりと連携をしていきたいと考えます。
「コラムを読まれている方にメッセージはありますか。」
少しでも迷っているならば、ぜひ話をしに来てください。
「私みたいな軽い相談で行っていいのかな」と思う場合もあると思います。
しかし、相談をしてみると自分が思っているより困りごとが深刻な場合もあります。一人で抱えることが一番危険なので、悩みの内容は気にせずに、とにかく少しでも悩んだら来てください。
誰かに相談をし、一緒に解決することが重要です。
○ どこに相談して良いか分からない場合
→ 女性相談支援センター 【電話番号】#8778
(参考)厚生労働省HP 悪質ホストクラブ問題について
○ ホストクラブ等との契約などにおける消費者トラブルの相談
→ 消費者ホットライン 【電話番号】188
(参考)消費者庁HP ホストクラブなどにおける不当な勧誘と消費者契約法の適用について
○ 売掛金に係る契約等の取消の手続等各種法的トラブルに関する相談
→ 日本司法支援センター(法テラス) 【電話番号】0570-078374
(参考)法テラスHP 法テラス・サポートダイヤル
○ ホストに売春等を強要されている、追われている等の犯罪被害に関する相談
→ 最寄りの警察署への通報または
警察相談専用電話 【電話番号】♯9110
(参考)警察庁HP ホストクラブ等の売掛金等に起因する事件等について
○ 性犯罪・性暴力被害の相談
→ 性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター 【電話番号】♯8891
(参考)内閣府男女共同参画局HP 性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター
「支援者の方へのメッセージはありますか。」
ホスト依存等のいわゆる「推し活」から脱却することは非常に難しいと言わざるを得ませんが、たとえば問題の核となる「依存」そのものの解決が難しくとも、付随する問題や当事者の目の前にある小さなつまずきを取り除く、小さな既成事実を丁寧に積み重ねていくことで、当事者との信頼関係が構築され、支援者側の本気度も伝わり、当事者も行動を起こしやすくなることから、最終的に根本的な課題解決につながるものと考えています。
福祉に関する知識があることに越したことはないと思いますが、それでも福祉に関する専門的な学びや、社会福祉士、臨床心理士等の資格がなくとも、できることはたくさんあるということをお伝えできればと思います。
また、女性支援の現場では、男性支援者、特に当事者と年齢の離れている男性は嫌厭されたり、関係性の構築が難しいのではないか、という意見もあったりしますが、実際に当事者からは、支援者が年の離れた男性であることで、自分を飾らなくていいことで相談がしやすい、加害者や追跡者がいるときには男性支援者がいたほうが心強い、男性が同行することで加害者からの接触を抑止する一助になる、といった声をいただくこともあります。
時に支援の一環で、当事者の引っ越しを手伝うこともありますが、そのような場合にも大型家電や大型家具などの重量物を運んだりするような際にも、重宝されるケースもあります。男性支援者の励みになれば幸いです。
今回は、レスキュー・ハブさんの提供する、ホスト依存など「推し活」に関する悩みを抱える女性への支援ついてお伝えしました。相談者の特徴などを参考にしていただき、支援の際に工夫されていることなどが、日々の支援内容を考えるきっかけになりますと幸いです。
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