抑圧と緊張の強い社会で
切れ目ない支援のバトンをつなぐ

  • #性的な被害
  • #DV
  • #ストーカー
  • #依存症

困難を抱える女性支援の第一線で、25年以上にわたり当事者と触れ合いながら活動するソーシャルワーカーの大嶋栄子さん。サポートを必要とする女性の低年齢化をはじめ、ますます複雑になる課題と向き合う中で、今年5月に新たな視点のシェアハウスを都内に開設しました。大切なのは、女性たちが本当に必要な支援とつながること。そしてその支援の輪がつながっていくこと。これまでの歩みと今後の展望、時代に即したソーシャルワーカー像について伺いました。

大嶋栄子さん

――まずは、自己紹介をお願いします。

大嶋栄子です。現在は、様々な被害体験を持つ女性を支える団体「リカバリー」でソーシャルワーカーとして活動し、精神医療に関連する研究所にも籍を置いています。女性支援と精神医療、どちらも長く携わっていますが、社会に出たての頃は全く違う領域の一般企業で社長室付の秘書をしていました。1980年代当時の女性秘書の業務といえば、花を生けたりお茶を出したりという感じです。なかなか紆余曲折があります。

後に休職してアメリカの大学に留学したのですが、その授業の中で性別に基づく固定観念や貧困、メンタルヘルスといった現代の課題に触れました。このあたりから精神医学と困難な状況にある人を支えるソーシャルワークに興味を持ち、仕事を辞めて日米で学び直しました。女性支援に踏み込んだのは、帰国後に勤めた病院の依存症病棟で中高年の女性患者さんに出会ったことがきっかけです。

――治療過程で、男女の違いや支援に関する疑問を感じたのでしょうか。

もちろん原因や治療は人それぞれですが、前提に違いがあるというか、男女でずいぶん状況が異なっていましたね。例えば、多くの男性は入退院時に妻や子が付き添ったり迎えに来たりしているものの、ほとんどの女性はいつも一人なんです。先ほどの女性はアルコール依存がある、既婚で子育て中のお母さん。一度は元気に退院されたのですが、半年も経たずに再入院することになってしまいました。

どうしてだろうと尋ねてみると、アルコール依存の背景には、夫からの心身への暴力がありました。夫婦間で対等なコミュニケーションが取れておらず、妻・母・嫁としての役割で縛り上げられ、詳しく聞けば望まない性交渉や複数回の中絶があることもわかってきて。外泊許可が下りた時も、性役割の押し付けによって家ではまるで休めていませんでした。家事をどっさりこなし、疲れ果てて病院に戻ってくるような状態です。そして、せっかく退院できても心の拠り所はなく、またアルコールに手を伸ばしてしまう……。依存症の治療は中高年の男性をモデルとして作成されますが、こんな事情があってはとても女性に応用できないと思いました。

新たに都内に開設したシェアハウスの一角にて

新たに都内に開設したシェアハウスの一角にて

調べてみても、女性の依存症に関する書籍や研究はないに等しかったですね。そこで「女性向け回復プログラム」をつくるため、依存が生じる原因や対策を自分で研究することにしました。この内容を実践しながら検証する仕組みが、今の活動につながっています。

――代表を務める「リカバリー」はその受け皿なのですね。

2002年に前身となる任意団体「それいゆ」を立ち上げ、2年後にNPO法人「リカバリー」として認証されました。もう25年目になります。様々な被害体験を持つ女性を支援するという意味で、組織変更に際して「リカバリー」という名称にしました。依存症はトラウマへの自己対処の一つなので、視野を広げて「女性向け回復プログラム」を必要とする手前の状態から支援しようという意味合いで。

そんな中で何を形にしていくか。「暮らす」「働く」「知らせる」「集う」をキーワードに据えて取り組んでいます。

――実際の支援や活動の内容はどのようなものでしょうか。

色々な考えがあったのですが、何よりもトラウマを抱えた人がきちんと社会の中に戻っていける、自分のペースで暮らしを再建できるような「居場所」が必要だと思いました。札幌と東京で4つの施設を運営しています。

そのうちの3つは、札幌です。まずは何らかの被害に遭った女性たちのためのグループホーム。定員6人の5LDK一軒家とサテライト拠点のマンション一室があり、入居女性に「誰かの気配があっても怖くない、安心安全な生活環境」の中で、共同生活をしながら暮らしを取り戻してもらう場です。栄養バランスのいい食事、服薬や金銭の管理といったサポートをしており、当直・巡回などの体制も整えています。

このほかに継続して働く練習をする就業支援センター、障がいがある人が地域で暮らす時に必要な福祉関連の各種手続きなどをお手伝いする相談室があります。この相談室では、訪問形式で生活上の困難を一緒に解決する「自立生活支援」にも取り組んでいます。

東京では今年の5月から、困難を抱えた女性たちを対象とする4LDK2階建ての一軒家をシェアハウスとして開設しました。主にそういった境遇の妊産婦さんを支援するNPO法人「ピッコラーレ」をはじめ、多くの縁によって生まれた共同プロジェクトです。札幌のグループホームが長期スパンの包括的ケアを目指す「暮らしの場」であるのに対し、ここは1〜2泊程度のショートステイや最長3カ月の中期滞在が可能な「仮の家」。現時点では、医療機関などからの打診をベースに体調などの状況を鑑みて受け入れています。

利用女性らも集うスペースには、自ら生ける季節の花を絶やさない。秘書時代に学んだフラワーアレンジが役立っている

利用女性らも集うスペースには、自ら生ける季節の花を絶やさない。秘書時代に学んだフラワーアレンジが役立っている

利用する女性は、一定の期限の中で身の振りかたを落ち着いて考えることができます。私たち運営側も「ご本人にとってどんな落ち着き先が理想で、どんな支援が必要か」を考え、候補を絞って提案します。入院や公的支援である障害福祉サービスとの違いは、そういったトリアージです。ここを拠点に生活保護の申請をするとか、それぞれの事情に沿って柔軟に対応しています。

――都内のシェアハウスでの日常、利用する女性とのコミュニケーションを教えてください。

今のところ、3人に利用してもらいました。同じ人が何度か利用することもありますね。その人は最近2泊しました。普段は一人暮らしで自活しているけれど、足音が怖いとかフラッシュバックで、夜一人で過ごせなくなってしまうことがあるんです。こういう場合、ケアは必要でも入院は不要なので、用途としてはピッタリだと思っています。

リカバリーが提供する一室では、当日夜から利用する女性のために寝具やタオル類が準備されていた。見学時に本人から聞いた「ピンクが好き」を受けた色づかい

リカバリーが提供する一室では、当日夜から利用する女性のために寝具やタオル類が準備されていた。見学時に本人から聞いた「ピンクが好き」を受けた色づかい

利用者がいる時は、私やスタッフが常駐します。1階は応接スペースとキッチン・ダイニング。「ここで仕事をしているから、いつでも声をかけて」と伝えて、女性は2階の自室などで自由に過ごしてもらいます。話がしたい時に降りてくる感じですね。負担にならないよう生い立ちなどには深く立ち入らず、言葉や行動を観察してニーズに応えるようにしています。

コーヒーミルやカラフルなカップがそろうキッチン・ダイニングは、心をほどく空間

コーヒーミルやカラフルなカップがそろうキッチン・ダイニングは、心をほどく空間

それから、札幌で取り入れている日中活動を東京でもまもなく導入予定です。畑仕事や言語化のグループワーク、アートセラピーなどいくつかあるのですが、その人に合うプログラムに触れていただきます。大切にしているのは、食べることと、他愛ないおしゃべりを取り戻してもらうこと。トラウマを抱えると緊張が解けなくなります。すると、物の味がわからなくなったり、空腹や喉の渇きに気づけなくなったりします。心の健康はきちんと食べて肉体を健康にしていくことから始まりますから、自分で収穫した野菜でまず食に興味を持ってもらうのです。また誰かとの会話は、心の栄養になります。何もない場では会話が続かないので、季節を感じるクラフト体験などの機会も設けています。

札幌で実施したハートのオーナメントづくり。複数人で切った布地に綿をつめて縫い上げるうちに自然と会話が生まれた

札幌で実施したハートのオーナメントづくり。複数人で切った布地に綿をつめて縫い上げるうちに自然と会話が生まれた

――長らく現代女性が抱える困難な問題に接して、どのような印象を持っていますか。

世代をまたいでいるというか、困難が引き継がれている傾向を強く感じます。例えば、一人親のお母さんが子どもを食べさせることで精一杯で、エネルギーを注げずにいたら娘さんが薬物依存になってしまったとか。類似ケースで、一人親ではなく有名企業に勤めるお父さんもいるのに、実は経済DVだったこともありますね。

複数の困難が横串になっていて、上の世代が苦しんでいた問題が下の世代に違う形で現れている状態です。これは近年急速に複雑な事情を持つ人が増えたわけではなく、社会での対応が後回しにされてきたから複雑化して露呈したんですね。着手されにくかったのは、福祉に関連する制度が「こども」「貧困」「女性」「高齢者」という具合に縦割りだから。

ソーシャルワークにも専門分野があるのですが、今後は横串のどの部分から手をつけるのかを判断できるジェネラリストの育成が必要です。厚生労働省にはぜひ、国民の健康と安全を守るリーダーシップをとってもらいたいと思います。

――今、困難を抱えてつらい思いをしている女性に、どのような声をかけますか。

セーフティーネットは見えないところにたくさんあります。迷ったり悩んだりしている人は、きっと出合えますからぜひ行動してください。行動したけれど居心地が悪い場所にいるという人は、あきらめず我慢せず次を探しましょう。誰かを頼れない人は、気軽にぼやいたり嘆いたりすることから始めませんか。私は「どんな逆境を体験しても、どんな過去があっても、人は変わっていく力を持っている」と信じています。

――そんな女性たちをサポートする、支援者側にもメッセージをお願いします。

これだけ抑圧と緊張の強い社会ですから、不安を感じる人は大勢いるはずです。それも、私たちのすぐ隣に。そんな人にとってのアクティブ・バイスタンダー、「傍観せず行動する第三者」でありたいですよね。大きな変化は起きないかもしれない。それでもいいと思います。心が震えるような素晴らしい瞬間に立ち会えることは少ないけれど、支援がつながっていくことこそが大事です。困難を抱える女性たちに色々なところを利用してもらって、誰かがそんな瞬間を目撃できるように、バトンを渡していきましょう。

<プロフィール>
おおしま・えいこ/NPO法人リカバリー代表、ソーシャルワーカー。国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所客員研究員。精神科ソーシャルワーカーを経て、2002年に女性支援団体「それいゆ」を設立。04年に現在のNPOとして認証され、現在4カ所の施設を運営する。著書は『傷はそこにある』(日本評論社)ほか。同書で2025年日本ソーシャルワーク学会・学術賞を受賞。

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